フィリピンで剣道してる方の話を聞きました。英語留学しながらマニラで剣道をしています。剣道について全然知らなかったので勉強になりました。日本の文化ですね。
フィリピンで剣道が熱い
毎年フィリピンに行って、剣道をしてるんです。最初に行ったのは2013年です。
どういう経緯なんですか?
英語の教員免許を持っているんですが、たまたま剣道の外部顧問みたいな形で学校に入って、中学や高校の部活指導をやっていたら、いつの間にか、剣道がメインになってきたんです。
ずっと剣道業界で生きてるんですか。
そうですね。役所で働いていた時期もあるんですが、学校教員として席を置いていた時期は、剣道顧問をやっていますね。
教員免許は英語だから、英語は得意なんですね?
英語の知識はあるけど、英語を喋る機会がなかったです。でも、海外旅行はしてましたし、「ハロー!ナイストゥミーチュウ!」とか簡単な会話はできましたよ。でも、その先に行きたくなった。英語でもっと詳しく伝えたい。そんな気持ちが生まれてきたんですよ。
それで、ちょっと時間のとれる時期があったので、軽い気持ちでフィリピンに行ったんです。2013年にアンヘレスにあるアジアンブリッジという学校に行きました。
最初は剣道ではなくて英語を勉強しに留学したんですね?
そうなんです。で、最初の自己紹介で剣道をやってることを言ったら、先生が、「日本のマーシャルアーツをやってるグループがマニラにあるみたいだよ。」って教えてくれて。それで、アンヘレスからマニラまで行って、練習に参加させてもらったんです。
そしたら、素晴らしかったんです。アジアの人が剣道を頑張っていて、思ったよりもレベルも高くて、マニラに駐在する人たちも一生懸命教えてたんです。それで、仲間に入れてもらって、2014年には道着を担いでマニラに行ったんです。剣道は趣味なんです。誰も褒めてくれないし、痛いし、寒いし、お金を稼げるわけでもないけど、楽しいんです。
年に1回、彼らが手作りでフィリピン選手権みたいな大会をやっていて、それを手伝いに行ってるんです。大会のあとのパーティーに参加して、一緒にワイワイやったり、一緒に練習するのが楽しくて、毎年フィリピンに行ってるんです。
剣道を教えてるんですか?
教えてるっていうと、ちょっと偉そうですけど。一緒にやってる感じです。日本では一練習生です…。剣道は段位性なので、すごいか、すごくないかといわれたら、中間ぐらいなんですけど。海外でもレベルの高いところ、低いところがあって。フィリピンは、まさに盛り上がってきているところなんです。
日本では鍛錬していて、海外でボランティアで教えてるんですね。
そんな感じですね。
フィリピンの他の国にも行ってるんですか?
フィリピンだけです。マニラは首都で、日本の東京みたいな感じなので、いろんな国の人がいるんです。多国籍な道場で、フランスの人も、ドイツの人もいて、だいたいみんな英語で話すんです。そこで、剣道についていろいろ聞かれるんです。
日本から高段者の上手い人が教えに行くんですけど、やっぱり英語の壁があるんです。英語が話せないから、やってみせるだけなんです。でも、こうでしょ、こうでしょっていう時期は、もう過ぎてるんです。所作をコピーしたいんじゃない。インテリの人たちは「なぜなんだ?」っていう説明を受けたいんです。彼らの熱意がすごいんです。
子供を教えるように、こうでしょ、こうでしょでは満足できないレベルに、東南アジアの剣道はなってきてる。そこに応えられるように、駐在員の人たちが頑張ってらっしゃるんです。
剣道の精神を英語で説明
何を聞かれるんですか?
柔道も弓道もそうなんですけど。フェンシングと違って、剣道は当たりゃあいいってわけじゃなくて、精神性みたいなものが強いんです。剣道はお金を稼ぐようなものじゃないので、みんな自己鍛錬の何かを求めてるんです。
当たった、当たってない、ではない、もっと深いところを、フィリピンの人も知りたいんです。「じゃあ、その兆しは何だ?」「なるほど!」って理解したいんです。
「禅とどういう関係があるんだ?」と聞かれても、日本語でも説明が難しいでしょ。最初は、アジアの方が禅に興味を持ってることにビックリしました。英語教員のライセンスを持ってるからとかではなく、疑問に答えてあげたくて。だから、調べて答えるんです。そんなやり取りが最初だったんです。
よく武道で、「無心」って言うじゃないですか。でも、「無心」を英語で伝えるのは難しいんです。「Empty mind?」ちょっと違う気がするし。作為的なものは何もないって意味だから、「Without purposes?」とか。ぴったりな単語はなかなかないので、いろんな単語を出して、説明するんです。
剣道のことは全然知らないんですけど、そもそもスポーツじゃないんですね?
スポーツじゃないです。だから、伝え方が難しいし、あまり広まらない。でも、そこに魅せられている人がいるんです。
剣道って自己鍛錬の要素が強いんですね。でも、大会では勝ち負けが生まれるんですね。
それがね…、剣道がオリンピック種目になってない理由でもあると思います。柔道とJUDOが違うとか聞いたことないですか?「柔道」は武道、「JUDO」はスポーツとか言われるんですけど、複雑なんです。剣道の世界観をわかってる人と、わかってない人がいると、解釈の違いが生まれるんです。
スローで見たら、違うやないかと。じゃあ、剣道の本義は何だ?といったら、打たれたときに、何で打たれたんだろう、そっか!、と気付くことなので。競技じゃないんですよね。
特殊な競技ですね。すごく日本らしいですね。おもしろい。
特殊なんです。柔道はフィジカルのぶつかりあいなので、若者と年寄りが一緒にするのが難しいんですけど、剣道は、ものを通しての、空間を使ってのやりとりだから。年齢差があっても楽しめるのがいいところなんです。
2015年に比べて、フィリピンの剣道人口って、増えてるんですか?
増えていますね。でも、日本は少子化だから、残念ながら減ってます。
どんなフィリピン人が剣道に興味を持つんですか?
漫画から興味を持つ人が多いです。僕らの世代だと「六三四の剣」。最近の若い人たちは「るろうに剣心」ですね。僕が2014年に行ったとき、「るろうに剣心」の佐藤健が、映画の試写会のゲストでマニラに来たんですよ。ものすごい人でした。
年配の方は、日本の刀が好きだったり、禅や和弓から剣道に興味を持つことが多いです。ヨーロッパの人は日本文化に興味をもって、それから剣道に興味を持つ方が多いですね。
剣道って防具に金がかかるんですよね?
お金がかかります。だから、マニラとかで頑張ってる人は、割と社会的に立場があったり、経済的に成立してることが多いです。
フィリピンの剣道選手権 マニラで開催
セブやミンダナオにも行ってますけど、剣道の集まりがあるんですか?
マニラにもミンダナオにもセブにも剣道クラブはあります。日本人の指導者が個人的に場所を借りて、それぞれが独自にやっていたんです。それが、4年、5年前にやっと繋がって、1つの剣道連盟になったんです。
それで、フィリピンで剣道選手権がはじまったんです。毎年大会をやっていて、去年はマニラで開催しました。フィリピンの剣道自体は今年で10周年記念だから、1番最古参の人たちは、10年ぐらいやってると思います。
組織のトップはフィリピン人ですか?
今の会長はフィリピンの人です。そんなに若くはないですけど、若い人と一緒にものすごく一生懸命やってます。
大会に出場してるんですか?
いえ、フィリピンの人のための試合だから、個人戦に日本人は出ないです。けど、団体戦は、みんな楽しく混ざってやってます。審判も交代でやって。シンガポールから審判の手伝いにきてくれたりして。みんなで手作りで頑張ってるんです。Facebookを見て「来ました!」みたいな飛び入りの日本人もたまにいます。フィリピン大学に留学してる学生さんも来ましたね。「フィリピンで剣道できるなんて知りませんでした」って言ってました。
日本人が集まると、マウントの取り合いみたいなのが生まれることがあるんですけど、英語を介すると、それもないし。フィリピンの人はオープンマインドだから楽しいんです。フィリピンの人たちもかなりうまくなって、フィリピン人の指導者も出てきました。
剣道を介してフィリピン人と交流
フィリピンにいる剣道仲間に会いに行ってるんですね。
そうですね。いまは本当にいろんな交流があります。京都で武徳祭という剣道の大会があるんですけど。去年、フィリピン人が武徳祭を見に来たので、日本を案内してました。日本人はOBとか、縦の繋がりが強いので、大会が終わったら、毎年同窓会をするんです。そういう飲み会に連れていったりします。フィリピンではあまり縦はなくて、横が広いから。
インテリの大学生が多いので「奨学金に受かって、日本の大学で勉強することになりました。」って子もいるし。日本で稽古をやりましたとか。いろんな連絡がきます。
楽しそう。剣道をやってる方にはぜひフィリピンで交流してもらいたいですね。
楽しいですよ。みんな興味があるから、いろいろ聞かれるんです。「YouTubeで見たけど、これは結局どういうことなんだ?」とかね。いろんな質問が来るので、かなり英語が鍛えられましたね。
どの辺で英語は問題なくなったんですか?
細かいニュアンスや技術的なことはずっと難しいです。でも、日常生活では、もう問題はないです。でも、素振りなんかでも「イーチ、ニー…。」ですし。「ミギテ、ヒダリテ、」とか結構日本語を使うんです。フィリピン人も日本語を理解しようとするし、お互いが歩み寄る感じですね。
もともと読み書きは得意なんですよね?
教員免許は持ってますから、ビギナーではないと思います。ただ、日本語でも答えにくい質問なんですよ。僕がラッキーだったのは、フィリピンの剣道メンバーに、日本で教育を受けたハーフの子がいて。日本語も、英語も、タガログ語も堪能だったので、助けてもらってました。そんな感じで、定期的にフィリピンの学校で英語の勉強をして、剣道の場で実践してるんです。
目的が明確だし、文化交流しながら英語を学ぶのはいいですね。次はフィリピン留学について聞かせてください。3つの学校を経験したんですよね?
はい。アジアンブリッジ、EB、MITの3つの学校を経験しました。
(2020年1月18日 新宿にて)